近くに聞こえる鳥のさえずり、遠くに聞こえる人の声。
確かに闇に覆われているはずなのに、目が感じ取る白んだ温かい光。
ふわふわとした浮遊感は現実味がなく。
しかし、その現実味のなさをしっかりと頭が知覚し得ているという状況に、どうでもいいことながら矛盾を感じる。
『…目…めた…?……コ?』
話しかけられて、名を呼ばれた気がした。
『…あ…?…気のせ…』
断続的に大きくなったり小さくなったりで、上手く聞き取れやしなかったが。
何だっけ、誰だっけ、と。
まとまりのない意識の断片をかき集めている間に、人の気配が離れていった。
去り際にやんわりと触れられた額から頬の部分に、かすかな心地よさとぬくもりだけが残る。
ふわふわ、ふわふわと…夢現。
─ あぁ、そうか ─
地に足が着かない感覚は依然変わらないままだったが、感覚がおそらく正常に機能し始めたのに伴って散漫だった意識が嘘のように一つにまとまり答えを得る。
─ 夜遅くに転がり込んで、そのまま眠っちまったんだったな… ─
起こしてしまわないように、という配慮だろうか。
静かな、しかし忙しなく動いている足音と時折漏れ聞こえるの鼻歌。
短かったのか、長かったのか。
とてもじゃないが判断つかない時を経て、気がつけば目を開いていた。
「おはよう、ギンコ」
横たわったままの状態で、目を開けて最初に飛び込んできたのは目も眩まんばかりの光と、の笑顔。
「…とは言っても。もうお昼前なんだけどね」
偶然と言ってしまうにはやぶさかな光景に。
もしかして起きる時を見計らってうろうろしていたのかと思うと笑いをこらえることができず、笑顔が怪訝な表情へと変わっていく様を眺める羽目になった。
「ギンコ、どうかしたの?」
「いや、何でもねえよ。…ただ」
「ただ?」
「いや…まあ、なんだ。気にすんな」
「えー」
途中でやめられたら気になるとかなんとかで。
しばらくは食い下がってきていたが渋々諦めて、ようやく俺が朝昼兼用の食事にありつけたのは起きてから少し経ってからの話。
目が覚めて、一番に飛び込んでくるのがの笑顔ってのもいいもんだなんて。
なかなか言えねえよ。
なあ?
2006.10.08