日差しは強く照りつけ、蝉の声は随所で響く。
時が過ぎるにしたがって更にその厳しさを増すであろう典型的な夏の戸外、開館15分前の図書博物館前。
アオイは投函された郵便物に目を止め、足をも止めた。
いくつかの封書から紛れて出てきたのは一枚の絵葉書。
青い海と白い砂浜、そして青い空がプリントされたその写真は、いかにもな南国の風景だ。
差出人の部分にはの文字。
消印は…。
「投函物と一緒に差出人までここにいるってのは、どうなのかな」
独り言にしては大きい、あからさまに言って聞かせる大きさの声に。
「なーんだ」
今しがた通り過ぎてきた方向からの声が重なった。
「気づいてたんだ」
どうやら大きな門柱の影にしゃがみこんで隠れていたらしい。
スカートの裾をはらってアオイの正面に立ったは、光の強さの急激な変化に眩しそうに目を細める。
「…気づかないと思ってたんだ」
「うん。だって私なら多分気付かないもん」
「ならね」
「あー、今ちょっと傷ついたかも」
「右に同じく」
お互い様なやり取りを賢明にも不毛と感じ取ったのか。
「そんなことより。これは新しい遊び?」
裏と表を交互に見やりながら、アオイは手に持った葉書をひらひらと振って見せた。
「こういう手段に頼らないといけないほど会わない期間が長いわけでも、辺鄙な場所に住んでるわけでもあるまいし。用事なんて全部、メールで済むのに」
「確かに。でもさ」
アオイからへ。
自分の手に移動させた葉書を真似るように一回振ると微笑んだまま小首を傾げ、ふわりと、微弱ながらも生じた空気の流れが風となって通り過ぎていく。
「かけた手間の分だけ、気持ちがこもってる気がするんだよね」
「これに?」
「ハガキに限ったことじゃなくて、形として残るアナログなもの全部」
「アニミズム的な思想、とでも言えばいいのかな」
「ちょっと違う気もするけど」
生真面目な面持ちで言葉を選んでいるアオイに微笑んだは、誘導する意志を持って視線を奥へと移した。
「アオイなら、なんとなく分かるでしょ?」
その目が映し出しているのは未だ閉ざされたままの扉、ではなく。
おそらく、更に奥へと進んだ先に収蔵されている形を有した情報の数々。
「まあ、『分からない』って言ってみることに意義は感じないけどね」
「…素直じゃないよね」
「褒め言葉かな」
「好きに解釈してくれていいよ、もう。それより、まだここ開かないの?」
「ああ、ごめん。ずっと待ってて暑かっただろ」
「………別にずっとなんて待ってないよ」
同意を示してはいるものの持って回った言い回しに、は呆れた勢いのまま持っていた葉書を押し付けると、興味は失せたとばかりにわざとらしく扉を叩いている。
「素直じゃないのは」
開錠と共に建物の中へと入り込んでいく、露出した肌の赤らみが全てを物語っている背中を可笑しげに見送ると。
「僕に限った話じゃないってね」
手に持っていた葉書をポケット深くにしまい込みながら、少し遅れて追いかけたアオイが笑った。
2006.08.06