暗幕



「幕でも張りめぐらされてるみたい」


真っ暗だね、と、台風の通過により一時的に電力の供給が断絶された状況下で。
つまり、停電した中でが窓越しに広がる黒々とした空模様と叩きつける雨風を称し、傍にいて互い違いの方向へと目を向けていたセフィロスが面倒くさそうに振り向く。


…。怖いのならカーテンを閉めておくか、することないんだったら大人しく寝ればどうだ」
「まだ眠くないし」


呆れた響きにむっとしたのか。
一度は視線を合わせて睨みつけただったが、外から受けるわずかな明滅に、すぐに顔を窓へと戻した。


「べ、別に?なんにも怖がってなんかないよ」
「そうか?」


ゴロゴロと、空が明滅するたびに随所で大小さまざまな低音が響き渡る。
かなり早い段階から彼女によって確保されていた手が、その音に呼応して頻繁に強く握り締められるのを、気付かないセフィロスでは勿論なく。
また、打てば響くように返されたやせ我慢がいたく心の琴線に触れたらしい。


「じゃ、大丈夫だな」
「………なにが?」


口の端を吊り上げて笑っていたとはまるで想像もつかない、あくまでも無表情を保ったまま、怪訝に眉をひそめ向けられた視線を受け止める。


「言い忘れていたんだが。俺はこれから出かけるぞ」
「え!?なにそれ、聞いてないよそんな話!?」
「だから、言い忘れていたと言っているだろう」
「そんなのだめ!」
「何が駄目なんだ?」
「えーと…ほら、色々と…ね!?」


冷静であれば口からでまかせを並べているとすぐに判断できる会話に踊らされ、完全に外から中へと注意が逸れたちょうどのタイミングで、一際強い光と間も無く大きな雷鳴が轟いたかと思うとの身体が大きくびくつく。


「どうした、やっぱり怖いのか?」
「こここここ怖くないって!」
「怖くないって、一体何が?」
「……!」


方や実に人の悪い笑みを浮かべ、方や青ざめた様子で虚勢を張り続けているが、分は明らかにセフィロスの方にあるようだ。


「…知らない」
「強情だな」


逡巡する沈黙の後、ふい、と背けられた目に。


「怖がってないのならこれも必要ないだろう?」


面白がる雰囲気のまま、するりとの手から自分の手を抜き取ってしまう。

果たして間がいいのか悪いのか。


「いるってば!」
「何故?」
「もー!雷が怖いって、気付いてるくせに!!」


奇しくも離れた瞬間に鳴り響いた雷は、かろうじて保てていた片意地をから取り払うのに十分なものだったようで。
自白を勝ち得たセフィロスが満足げに声を立てて笑うことで、一連のやり取りに終止符が打たれることとなった。






それからと言うもの。
雷どころか、暗幕のように暗く垂れ込め始めたの空を見るたびに、問答無用でセフィロスに張り付いているの姿が間々見られるようになったとか。


テレビやラジオの台風情報を聞くか、ぼんやり過ごすか、寝るか。

明かりの消えた台風時の過ごし方などいずこも大して変わらないであろう場面に、とある日の降って湧いた退屈しのぎは、セフィロスにとって実に楽しく有益なものだったらしい。


お題配布元:ドリーマーに100のお題