例えば同じ屋根の下で生活していたとしても、生活のリズムが何もかも同じ、というわけではないだろう。
ビジネスやプライベート、様々なシチュエーションが重なって、全く顔を見ない日があったとしても決して不思議ではない。
彼らもちょうどそんな状況下。
「生きてるー?」
ダンテの周りでトラブルも仕事もぱったりと途絶え、ちょっとした開店休業気分を味わっているさなか、家に寄り付く暇もないほどに駆けずり回っていたが久しぶりに顔を覗かせた。
「ああ。放置されっぱなしで干からびる寸前だがな」
「まー、心にもないことをよく言うわね」
「どうもの俺に対する考察は斜めすぎていけねえな」
「だってほら、まともに取り合わないことにしてるから」
「…冷てえ」
久しぶり、とは言ってもせいぜい4、5日程度のものだったが。
「…って、あら」
深く腰掛けるというよりも、寝転がるような体勢で愛用の椅子に陣取っているダンテを覗き込んだは、思わずといった様子で軽く目を見張っている。
「ちょっと見ないうちに、随分と男前が上がったんじゃない?」
「あ?」
覗き込まれている割には全く視線が合わないことに焦れたのか。
ずるずると更に身体を深く沈めて視線を合わせようと試みるものの、相手の目も連動して動けば期待した効果など得られるはずもなく。
「俺はいつだって男前だろ?」
「言ってなさい」
ダンテは前触れもなく急に身体を起こすと、互いの距離があと数センチと言うところまで近づけることで、ようやく小さいながらも当面の目標を達成することができたようだ。
「ね、この辺」
慌てず騒がず。
ちょうど良かったとでも言わんばかりに笑みを浮かべたは、するりと頬を一撫でしてみせた。
「今までに全然見たことないとは言わないけど」
辿った指先が、ざりざりとかすかな摩擦音を立てる。
「いかにもほったらかしにしてましたって感じ」
「何だ、これのことか」
「そう、それのこと」
興味の対象となり得ていたもの、つまりは数日で随分と伸びた髭にダンテが無造作に触れると、がこくりと頷く。
その、一連の流れから一体何を汲み取ったのか。
「知らなかったな」
妙に納得したような声と意外そうでありながらもまんざらでもない笑い顔に、持っていた荷物を探っていたが怪訝な表情を浮かべ先を待ち。
「がワイルド好みだったとは」
「ワイルド好み?」
「だってそうだろ?無精ひげにそこまで反応するってことはよ」
なかなか俺になびかないはずだぜ、まで来たところでため息交じりに天を仰ぐ。
「何ならこれからはずっと髭を…」
「そういう理由でなら生やしてもらわなくて結構よ」
再度近づき始めたダンテの身体を左手で押しとどめると、いつの間にか物を掴んでいた右手を間に割り込ませちらつかせ。
「…カミソリ?」
「剃るか、整えるか。どっちかにしない?」
「は?」
照明を受けて鈍く光る刃に、時が止まった。
「どちらにするかなんて個人の自由でいいと思うんだけど。伸びるがままって、どうも苦手なのよね」
無言のまま固まっている手にカミソリを預けると、極限まで縮まっていた距離を何気なく広げたがすっきりとしたように微笑む。
「…男前って、普通いい意味で使わねえか?」
「別に悪い意味で使ったつもりはないけど?」
「……」
一方、ペースを乱され珍しく翻弄される立場に立たされたダンテは、カミソリを片手に言葉の意味についてしばらく考えていたとかいないとか。
2006.09.12