一面が赤く染まる夕暮れ時。
子どもを呼ぶ親の声と応える子どもの声。
点在していた人影が、一人、また一人と消えていく中。
「あれ、Jr.?」
無言で目の前に現れた人影に、シーソーにまたがったままのは不思議そうな声を上げた。
「いっつも思うんだけど」
「何だよ?」
「誰にも行き先教えてないのに、毎度うまく探し当てるよね」
「やっぱり確信犯かよ」
誰かが探していたのか、それともJr.本人が自らの意思で探していたのか。
細かい事情が分かる状況ではないようだが、彼女を探しに来たという事実だけは確かだったらしい。
憮然とした表情には、呆れと安堵の色が交互に垣間見えては消えていく。
「もしかしてあたしに発信機かなんか仕込んでる?」
「んなもん、仕込んでねーよ」
「あ、野生の勘か」
「どっちにしたって人聞き悪いじゃねえか!」
「冗談よ、冗談」
「…どーだかな」
ひらひらと。
適当にあしらおうとする魂胆があからさまに見て取れる手から誠意を汲み取るのは至難の業だろう。
諦念もあらわにJr.は大きく息をついた。
「ガイナンから伝言。『仕事は山ほど溜まっている』だとよ」
「えー」
「いいから帰んぞ、」
「ままま、そう焦らずに」
差し伸べられた手に重ねようとする気配はなく、堅く持ち手を握り締めたまま。
「ねえ。ちょっとそっち、座ってみない?」
「ああ?」
「ね?ちょっとだけ」
ひとりじゃつまんなくてさ、と言われて空いた方の手で指し示された先を辿ったJr.の目に、が陣取っている場所と向かい合わせのシーソーの端が映る。
「しょうがねーなー」
「うわっ!」
投げやりな言葉とは裏腹に、声もなくにやりと笑って見せたJr.が勢いよくシーソーに飛び乗ると、反動で急に跳ね上がったが慌てて両手で持ち手を掴む。
「でも、ほどほどにしておかねえと、後でガイナンに搾られるぜ?」
「そうなったらJr.に付き合わされて仕方なく…って、ありのままを言うから」
「嘘ばっかりじゃねえか!」
何となく気分が高揚しているのだろうか。
交わされる会話はいつもより少し大きく、いつの間にか二人だけになって閑散としていた公園に響き渡る。
「大丈夫。きっとガイナンはあたしを信じてくれる」
「………信じそうだよなあ、あいつは…」
他愛ないやり取りに煽られるように跳ね上がるタイミングは短くなり。
「寂しい繋がりね、あなたたち…」
「誰のせいだよ!?」
伸びて、縮んで。
跳ねて、沈んで。
金具を軋ませながら互い違いに地面を蹴る二人からは、絶え間なく笑いがこぼれ落ちた。
「ありがとね、Jr.」
「何が?」
「…なんとなく」
「わっけ分かんねえ」
昼と夜とではまるで表情を変える、人気のない公園のなせる業か。
一人きりと言う状況が、無性に孤独感と寂寥感を呼び寄せていたのかもしれない、と。
「Jr.が迎えに来てくれて、嬉しかったって言ってんの!」
「…」
口を噤んでしばらく言葉を探していたが、やけくそのように声を張り上げると何の合図もなく飛び降りた。
「…って。おわっ、危ね」
「さっきの仕返し」
「急に降りたら、危ねえだろうが!」
「だから、仕返しだってば」
「言い訳になるか!」
「なせばなる、かも?」
「ならねえっての」
バランスを失ったシーソーに、自身もバランスを失ってしまう直前で何とか着地して体勢を整えたJr.が、一足遅れでの後を追いかける。
キイキイという摩擦音に何とはなしに耳を傾けていた二人は音が完全に消失すると同時に顔を見合わせ、ふと、静かに笑い合う。
「どこをほっつき歩いてたって、俺が絶対に見つけてやるから心配すんな」
「…うん」
迎えに来て、早々にしていたように。
「頼りにしてるよ」
再びJr.から差し伸べられた手に今度こそは大人しく自分の手を預け、すっかりと日が落ち暗くなった公園を後にした。
2006.09.13