仮眠程度にまどろんでいたJr.がいつの間にか深い眠りへと誘われて、唐突に現実へと立ち戻ったのは深夜近く。
過去の忌まわしき出来事は記憶から薄れることなく悪夢となって生き続け、目覚めた後にも後味の悪さが付きまとう。
「これじゃしばらく何も手がつかねえな…」
舌打ち交じりに軽く頭を振るとJr.は自室を後にした。
「いくら後悔したところでどうにもならないことぐらい、理解してるつもりなんだけどな」
人気のないパークエリアの芝生に転がると淡く明滅する光を眺める。
「ミルチア紛争、か…」
見慣れたナンバーに視線を固定したまま手をかざして低くつぶやく。
その先に見えるのはここにはない過去のヴィジョンなのか。
疲れたような深いため息を漏らした。
「環境虫相手にひとり寂しくブツブツ言ってるのって、傍から見てると結構怖いんだけど」
「…?」
まったく人がいない状況ではなかったとはいえ、その人数は広いパーク内で数えられる程度に過ぎない。
十分に距離をとって陣取ったはずの場所で右に左に、きょろきょろと辺りを見回し。
「そっちじゃないってば」
再び発せられた声を頼りにJr.は上を振り仰いだ。
「…?」
「そうでーす…ってなに?その微妙な表情」
しっかりとした枝の付け根。
太い幹に背中を預けるようにして、Jr.よりも高い位置でのんきに手を振ったは次いで小首をかしげる。
「こんな時間にそこで何してたんだよ?」
「ん、ちょっとね。リフレッシュ」
「ああ」
暇さえあればパークエリアに入り浸って、のんびりと過ごしがちなが。
また、所構わず寝入っていたのではないかと一抹の不安を抱いていたJr.は、よどみなく返された答えに安心したように頷く。
「と言う名のちょい寝」
「だからそれはすんなっていつも言ってんだろ!」
「うわー。打てば響くとは正にこのことね」
「ちっとは悪びれろよ…」
一度は跳ね起きた身体が再び地に戻るのを見下ろしていたは、軽く肩をすくめて自身も地面へと降り立ち。
「また、夢でも見たの?」
Jr.に倣うようにして仰向けに転がると環境虫が作り出す光の軌跡に目を細めた。
「…別に」
「…そっか」
そっけない口調とは裏腹なぎゅっと握りこまれた袖口に、は音もなく笑みを浮かべて目を瞑る。
「たまにはこういう場所で惰眠を貪るのもオツなもんよ」
「の場合、たまにどころの騒ぎじゃねえだろ」
「…固いこと言わないの」
ぼそぼそと囁くような声は、やがて穏やかな二つの寝息へとすりかわっていく。
次に夢から覚めたとき。
後味の悪さだけは即刻解消されるであろう状況下で。
2005.11.17