「チロルチョコ、チョコボール」
窓際の席。
「カールにうまい棒」
指折り、ひとりつぶやいている。
「思い切って500mlの紙パックジュース…ああ、ダメダメ!」
唐突に声を張り上げて。
自分の提案をあわてて取り下げている。
「アレは消費税がかかるから100円じゃ無理だ」
「…って、さっきからなんの話なんだよ?」
「んあ?」
呆れたような声に、はひじをついた体勢のまま視線を転じる。
隣の席、オレンジ頭。
「なに?一護」
「聞いてんのは俺だろ」
はー、と大きくため息をついた一護の眉間には、毎度おなじみ立派なしわ。
一度アイロンでもかけてみれば伸びるかな、などとが思うままに提案した後、打てば響くように軽くチョップをもらってしまった過去の経験からか。
今ではしわを眺めつつ心の中で思う程度にとどめているようだ。
「えーと…なんだっけ?」
「…ったく」
がしがしと頭をかいて。
またため息。
「なにをさっきからブツブツ言ってんだよ、っての」
「ああ、それか」
「それだよ」
「それだね。うん。実は結構重大な問題でさ」
そうは見えないと思うけど、との言葉に深く深ーく頷く一護。
直後、いつの間にやらの手に握られていた世界史の教科書が、オレンジ頭にクリーンヒットしていたようだが。
彼女にとって特に問題ではないらしく。
涼しい顔で話を続けている。
「実は今なんと!私の全財産100円こっきりなんだけどさ。さてココで問題」
「はあ」
「昼前、弁当ナシ、加えて腹減ったって言うこの状況下で導き出される答えは?」
「今日の昼メシどうしよう?」
「ビンゴ!!」
どこから出したのか。
ふたりの間にぱっと舞い散る紙ふぶき。
設問:この紙ふぶきの元となるものはなんでしょう。
よく見ると印刷された紙に書かれた鉛筆の文字と赤いペンの片鱗。
結論:さっき返却されてきた答案用紙。
頭に肩に。
無数の紙くずをつけたまま、何事もなかったかのように一護が不自然な咳払いをする。
「、オマエな…」
「ん?」
「昼メシのこと考えててなんでチロルチョコとか出てくんだよ?」
「100円で買えて食べたいもんっつったらその辺に落ち着いたわけよ」
「昼メシにならない上にどこまで買いに行くつもりだよ」
「行けるトコまで」
「行かんでいい、行かんで」
「それじゃ私、昼ごはん抜きじゃん」
「だからソレ、メシじゃねえって」
憤然とするに脱力する一護。
「大体、そんなもん食おうとするよりもっと確実な方法、あんだろ?」
「なにソレ?」
「イッチゴーッ!!」
軽く眉をひそめたの耳にも届く能天気な声に即、合点がいって。
にんまりとほくそえむ。
「よ、ケイゴ」
「一護、。今日の昼メシは屋上で決定だからな!すっぽかしたら俺、泣くからな!」
あまり自慢にはならないことに胸を張る啓吾を見やりつつ、お互い目配せ暗黙の内に同盟締結。
「わかってるよ。ところでケイゴ、今日のオマエの昼メシ、何?」
「今日は菓子パンフルコース!」
「そう、楽しみだね」
「だろ!?楽しみだよな〜」
普段無愛想な二人から得る好感触に。
スキップしつつ上機嫌で去っていく啓吾の後姿を眺めうっすらと黒い笑みがふたつ。
「当面の心配がなくなったところで」
「おう」
「帰りになに買って帰ろうかな?やっぱ、チロルチョコ?」
「オマエにはその金を使わないって選択肢、ねえのかよ?」
「ないね」
「アホ」
こつんと小さいものが額に当たる感触に、が軽く目を細める。
「あたた…なによ?って、あれ?」
コロン、と手のひらに落ちてきたのは小さな飴玉。
「一護、コレ…」
「メシまでソレ、なめてろ」
一護が正面を向くと教員が教室に入ってきて。
4時限目開始のチャイムが鳴り響く。
「さんきゅ」
包みを開いて飴玉を口に放り込むと広がる甘味。
今日のところは全財産、使わずにおくかなどと思わせてしまうほどの。
十分な甘さ。
2005.09.15