一人の夜



囁くように話す声が好きだった。
時々微笑んでくれるのが好きだった。
優しく、時には強く抱きしめてくれるのが好きだった。
ふたり一緒にいることがとても自然なことだった。


でも。
ある夜を境に私はひとりになった。







それは、月がやけに冷たく見える夜で。


「一緒に、来るか?」


額当てに見えたのは横一文字の大きな疵。
差し伸べられた手のひらには無数の返り血。

この日が来ることを分からなかったわけじゃない。
会話の端々に感じられたイタチの本心。
私が止められるはずもない、と。
分からない振りをしていただけ。


「…


私は一族ではないけれど。
イタチと一緒にいた時間の長さが、うちは一族を大切なものへと変えた。
それが失われてしまったことを思い知らされる。


「イタチ…」


それでもついて行きたい気持ちはあった。
同時に、捨てられない里への思いがあった。

何も言えないまま時間が流れて。
やがてイタチは闇に溶け込むように私の前から姿を消した。




ついていくこともできず、かといって抜け忍として処することもできず。
どっちつかずな心の隙間に入り込んで夜毎くり返される夢。

眠れぬ夜を修行にあてて暗部入りを果たした私が。
再びイタチと会うことができたとしたら、夢は一体どんなふうに変わるのだろう。


どう転んだとしても。
きっと、もうこの夢を見ることは、ない。


お題配布元:ドリーマーに100のお題