囁くように話す声が好きだった。
時々微笑んでくれるのが好きだった。
優しく、時には強く抱きしめてくれるのが好きだった。
ふたり一緒にいることがとても自然なことだった。
でも。
ある夜を境に私はひとりになった。
「」
それは、月がやけに冷たく見える夜で。
「一緒に、来るか?」
額当てに見えたのは横一文字の大きな疵。
差し伸べられた手のひらには無数の返り血。
この日が来ることを分からなかったわけじゃない。
会話の端々に感じられたイタチの本心。
私が止められるはずもない、と。
分からない振りをしていただけ。
「…」
私は一族ではないけれど。
イタチと一緒にいた時間の長さが、うちは一族を大切なものへと変えた。
それが失われてしまったことを思い知らされる。
「イタチ…」
それでもついて行きたい気持ちはあった。
同時に、捨てられない里への思いがあった。
何も言えないまま時間が流れて。
やがてイタチは闇に溶け込むように私の前から姿を消した。
ついていくこともできず、かといって抜け忍として処することもできず。
どっちつかずな心の隙間に入り込んで夜毎くり返される夢。
眠れぬ夜を修行にあてて暗部入りを果たした私が。
再びイタチと会うことができたとしたら、夢は一体どんなふうに変わるのだろう。
どう転んだとしても。
きっと、もうこの夢を見ることは、ない。
2005.09.23