千日紅。
見るものの目を捉えては離さない、鮮烈な印象の赤。
篝火花。
鮮やかな、やわらかな桃。
雪を思わせるような純白。
不如帰。
小さな白い花に点在する斑紋は濃い紫。
そして、菊は様々な色と形で一面を賑わす。
「今日もみんなきれいね」
家の裏手、こぢんまりと広がる庭の中央に、顔をほころばせて佇むがその心のままに語りかけて。
相も変わらず縁側にどっかりと腰を落ち着けたギンコは、静かにそれを見守り続けている。
冬に良く見られる重く曇りがちな空とは対照的に、色を纏った花々はまるでに応えるかのように風に揺られほのかな香りが辺りに漂った。
「おい、」
「ん、大丈夫よ」
雨に濡れて身体を冷やすことを心配したギンコが手招きをするが、は微笑んだままで頭を振った。
不意に訪れた小雨は屋根のない場所へしとしとと降り注ぎ。
ある場所でははじけ、ある場所では吸い込まれるようにしてまんべんなく浸透していく。
「お前ね…」
パサリと軽い音と共に舞い降りてきた軽い感触。
驚いて顔を上げたの視界にはギンコと二人の頭にかぶせられたコートが映り込み。
「この寒空の中、率先して雨に打たれるヤツがあるか」
「ごめんね、ありがとう」
布地にあたるかすかな音を耳に、潤いゆく草花を眺めそっと寄り添った。
いくらも経たないうちに、気まぐれな雨はすぐに通り過ぎ。
雲の隙間から差し込んだ光が地上を照らすと、雨露を帯びた花びらも光を反射してまばゆいばかりにその存在を主張する。
「見て、ギンコ」
「うん?」
かぶっていたコートをギンコの手から取り上げたが庭の中央で大きく一つはためかせて。
含んでいた露が払い落とされて霧散する。
きらきら、きらきらと。
「潤った花がとてもきれいだね」
雨露が消えてしまうまでの花と水と光の短い宴。
「そうだな。…でも…」
「でも?」
賛同の後、何故か言いよどんだギンコに不思議そうな表情のが動きを止めて小首をかしげる。
「…いや、何でもねえよ」
「嘘。ね、今なにか言いかけたでしょ?」
「だから、何でもねえって」
「意地悪しないで教えてよ」
「あー…寒いな。さっさと中に入ってあったまるか」
「もー、ギンコったら!」
中途で途切れてしまった先の言葉を引き出すべく。
傍に来て腕を掴んでいたを引きずるようにして、とぼけた口調で庭を後にした。
『潤った花がとてもきれいだね』
花に囲まれ、こぼれるような笑顔を浮かべたの姿にこそ心が満たされ潤った気がしたということは。
「んなこと言えるかっての」
結局、言葉となって表に出されることなくギンコの胸の内に秘められたまま。
2005.12.02