「どうしたの?セフィロス」
いつからそうしていたのか。
自分を追う視線に気づいたが動きを止め首を傾げる。
「……」
確かに視線は合っているというのに、それ以上への行動へはおおよそ発展しそうもない様子に。
つかつかと歩み寄ったはおもむろにセフィロスの額へと手をあてた。
「…冷たい」
「さっきまで水を触っていたからね」
「そうと分かっていて触診する意味はあるのか?」
「あるんじゃない?」
高いところから低いところへ。
まだらに熱が抜けた額に自分の額をくっつけて具合を見ていたが、風邪じゃないみたいねとつぶやいて身体を離す。
「…愛が見えん」
「はあ!?」
ぼそりと発せられた言葉は、作業を再開していたの動きを止めるには十分すぎる響きを宿し。
呆れた表情をぶんぶんと大きく頭を振って消し去ると、セフィロスの元へと飛びつくように駆け寄った。
そしてその手は銀の髪の付け根、何故か頭へと添えられて。
「今度は何だ」
さわさわさわ。
「え?あ、いや…」
曖昧に言葉を濁しつつも、頭頂部から側頭部、果ては後頭部へとあらゆる部分に手をあて丹念に何かを探し続けている。
「妙なこと口走るから、頭でも打ったのかと…」
「俺がそんなヘマするか」
いたく矜持を傷つける発言だったらしく、セフィロスは不満もあらわにの両手を払いのけ言下に否定した。
「じゃあなんなのよ?そのバカげたセリフの真意は?」
「何だと言われてもな。言葉の意味する通りだが?」
「ものすっごく違和感あるんだけど」
「だが、その通りだろう?」
「…同意を求められてもね」
暖簾に腕押し、ぬかに釘。
とても成立しているとは言いがたい会話に、付き合っていられないとばかりに身を翻しかけたに。
「問題はまだ解決していないぞ」
「なんの問題よ?」
「愛が見えない件について」
「あーはいはい、愛してますよーって。これでいい?」
しつこく食い下がるも状況が好転するわけもなく。
「良いわけあるか」
「知らないわよ、もう」
「」
「今忙しいから後でね」
「!」
少しも納得できていないセフィロスを一人残して、はその場を後にする。
そう離れていない、壁一枚隔てた向こう側で。
盛大な舌打ちを漏れ聞きながらじんわりと苦笑いを浮かべたが。
「十分すぎるほど、いっぱいあるじゃない。ねえ?」
何くれとなく世話を焼いたり心配したり、と。
思い起こしては内心指折り数え、ひょいと肩をすくめた。
愛の形も人それぞれということで。
2005.11.28